持ちを悪くしなかったかと心配しています。
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 と、婦人たちにも見せてほしいらしく仮名がちに書いて、端に、

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竹河《たけかは》のはしうちいでし一節《ひとふし》に深き心の底は知りきや
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 という歌もある手紙を送って来た。すぐに寝殿へこの手紙を持って行かれて、侍従の母夫人や兄弟たちもいっしょに見た。
「字も上手だね。まあどうして今からこんなに何もかもととのった人なのだろう。小さいうちに院とお別れになって、お母様の宮様が甘やかすばかりにしてお育てになった方だけれど、光った将来が今から見える人になっていらっしゃる」
 などと尚侍は言って、自分の息子たちの字の拙《つたな》さをたしなめたりした。藤侍従の返事は実際幼稚な字で書かれた。
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昨夜はあまり早くお帰りになったことで皆何とか言ってました。

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竹河によを更《ふ》かさじと急ぎしもいかなる節《ふし》を思ひおかまし
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 この時以来薫は藤侍従の部屋《へや》へよく来ることになって、姫君への憧憬《あこがれ》を常に伝
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