して熱心にもならず薫の弾きだした琴の音は、音波の遠く広がってゆくはなやかな気のされるものだった。接近することの少なかった親ではあるが、亡《な》くなったと思うと心細くてならぬ尚侍《ないしのかみ》が、和琴に追慕の心を誘われて身にしむ思いをしていた。
「この人は不思議なほど亡くなった大納言によく似ておいでになって、琴の音などはそのままのような気がされました」
と言って、尚侍の泣くのも年のいったせいかもしれない。少将もよい声で「さき草」を歌った。批評家などがいないために、皆興に乗じていろいろな曲を次々に弾き、歌も多く歌われた。この家の侍従は父のほうに似たのか音楽などは不得意で、友人に杯をすすめる役ばかりしているのを、友から、
「君も勧杯の辞にだけでも何かをするものだよ」
と言われて、「竹河《たけかわ》」をいっしょに歌ったが、まだ少年らしい声ではあるがおもしろく聞こえた。御簾《みす》の中からもまた杯が出された。
「あまり酔っては、平生心に抑制していることまでも言ってしまうということですよ。その時はどうなさいますか」
などと言って、薫の侍従は杯を容易に受けない。小袿《こうちぎ》を下に重ねた細
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