ちょう》なことのように人は非難したものだけれど、愛情が長く変わらず夫婦にまでなったのは、一面から見て感心な人たちと言っていい。だから世の中のことは何を最上の幸福の道とはきめて言えないのだね」
などと玉鬘《たまかずら》夫人は言っていた。
左大臣の息子の参議中将が隣に大饗《だいきょう》のあった翌日の夕方ごろにこの家へ訪《たず》ねて来た。院の女御が家に帰っていることでいっそう美しく見える身の作りもして来たのである。
「よい役人にしていただきましたことなどは何とも思われません。心に願ったことのかなわない悲しみは月がたてばたつほど積っていってどうしようもありません」
と言いながら涙をぬぐう様子でややわざとらしい。二十七、八で、盛りの美貌《びぼう》を持つはなやかな人である。
帰ったあとで、
「困った公達《きんだち》だね。何でも思いのままになるものと見ていて、官位の問題などは念頭に置いていないようだね。こちらの大臣がお薨《かく》れにならなければ、ここの若い人たちもあの人ら並みに、恋愛の遊戯を夢中になってしただろうにね」
と言って、玉鬘夫人は歎息《たんそく》をしていた。右兵衛督《うひょうえのかみ》、右大弁で参議にならないため太政官の政務に携わらないのを夫人は愁《うれ》わしがっていた。侍従と言われていた末子は頭《とうの》中将になっていた。年齢からいってだれも官等の陞進《しょうしん》がおそいほうではないのであるが、人におくれると言って歎《なげ》いている。参議の職はいかにも若い高官らしく、ぐあいがいいのだけれど。
底本:「全訳源氏物語 下巻」角川文庫、角川書店
1972(昭和47)年2月25日改版初版発行
1995(平成7)年5月30日40版発行
※このファイルは、古典総合研究所(http://www.genji.co.jp/)で入力されたものを、青空文庫形式にあらためて作成しました。
※校正には、2002(平成14)年4月10日44版を使用しました。
入力:上田英代
校正:kompass
2004年3月17日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全28ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング