から、第三者が見れば君寵《くんちょう》に変わりはないと見えることもその人自身にとっては些細《ささい》な差が生じるだけでも恨めしくなるものらしいですよ。つまらぬことに感情を動かすのが女御《にょご》后《きさき》の通弊ですよ。それくらいの故障もないとお思いになって宮廷へお上げになったのですか。御認識不足だったのですね。ものを気におかけにならないで冷静にながめていらっしゃればいいのです。男が出て奏上するような問題ではありませんよ」
と遠慮なく薫が言うと、
「お逢《あ》いしたら聞いていただこうと思って、あなたをお待ちばかりしていましたのに、私をおたしなめにばかりなるそのあなたの理窟《りくつ》も、私は表面しか御覧にならない理窟だと思いますよ」
こう言って玉鬘夫人は笑っていた。人の母らしく子のために気をもむらしい様子ではあるが、態度はいたって若々しく娘らしかった。新女御もこんな人なのであろう、宇治の姫君に心の惹《ひ》かれるのも、こうした感じよさをその人も持っているからであると源中納言は思っていた。
若い尚侍《ないしのかみ》もこのごろは御所から帰って来ていた。そちらもあちらも姫君時代よりも全体の様子の重々しくなった、若い閑暇《ひま》の多い婦人の居所になっていることが思われ、御簾《みす》の中の目を晴れがましく覚えながらも、静かな落ち着きを見せている薫を、夫人は婿にしておいたならと思って見ていた。
新右大臣の家はすぐ東隣であった。大臣の任官|披露《ひろう》の大|饗宴《きょうえん》に招かれた公達《きんだち》などがそこにはおおぜい集まっていた。兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は左大臣家の賭弓《のりゆみ》の二次会、相撲の時の宴会などには出席されたことを思って、第一の貴賓として右大臣は御招待申し上げたのであったが、おいでにならなかった。大臣は秘蔵にしている二女のためにこの宮を婿に擬しているらしいのであるが、どうしたことか宮は御冷淡であった。来賓の中で源中納言の以前よりもいっそうりっぱな青年高官と見える欠点のない容姿に右大臣もその夫人も目をとめた。
饗宴の張られる隣のにぎやかな物の気配《けはい》、行きちがう車の音、先払いの声々にも昔のことが思い出されて、故太政大臣家の人たちは物哀れな気持ちになっていた。
「兵部卿の宮がお薨《かく》れになって間もなく、今度の右大臣が通い始めたのを、軽佻《けい
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