いつかから病気がだいぶ重いということは聞いていましたが、平生から弱い人だったために、つい怠って尋ねてあげることもしませんでした。故人の死をいたむことはむろんですが、あなたがどんなに悲しんでおられるだろうと、それを最も私は心苦しく思います。死はだれも免れないものであるからという道理を思って心を平静にしなさい。
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 とあった。宮は涙でお目もよく見えないのであるが、このお返事だけはお書きになった。平生からすぐに遺骸《いがい》は火葬にするようにと御息所《みやすどころ》は遺言してあったので、葬儀は今日のうちにすることになって、故人の甥《おい》の大和守《やまとのかみ》である人が万端の世話をしていた。亡骸《なきがら》だけでもせめて見ていたいと宮はお惜しみになるのであったが、そうしたところでしかたのないことであると皆が申し上げて、入棺などのことをしている騒ぎの最中に左大将は来た。
「今日弔問に行っておかないでは、あとは皆、そうしたことに私の携われない暦になっているから」
 などと、表面は言って、心の中では宮のお悲しみが悲しく想像され、少しでも早く小野へ行きたく思っているのに、

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