せん。そんなにお悲しみになりましても、お死にになった方がお帰りになるものでございません。お慕いになりましてもあなた様のお思いが通るものでもございません」
 とわかりきった生死の別れをお説きして、
「こうしておいであそばすことは非常によろしくないことでございます。お亡《かく》れになりました方をお迷わせすることになりますから、あちらへおいであそばせ」
 お引き立て申して行こうとするのであるが、宮のお身体《からだ》はすくんでしまって御自身の思召すようにもならないのであった。祈祷の壇をこわして僧たちは立ち去る用意をしていた。少数の者だけはあとへ残るであろうが、そうしたことも心細く思われた。ほうぼうから弔問の使いが来た。いつの間に知ったかと思われるほどである。夕霧の大将は非常に驚いてさっそく使いを立てた。六条院からも太政大臣家からも来た。ひっきりなしにそうした使いが来るのである。御寺《みてら》の院もお聞きになって、御愛情のこもったお手紙を宮へお書きになった。この御消息が参ったことによって、悲しみにおぼれておいでになった宮もはじめて頭《つむり》をお上げになったのであった。
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