類の男には、私のようなのをばかな態度だとして、直ちに同情もなく力で解決をはかってしまうのです。あまりに私の恋の価値を軽く御覧になりますから、知らず知らず私も危険性がはぐくまれてゆく気がいたします。男性とはどんなものかを過去にまだご存じでなかったあなた様でもないでしょう」
 こう責められておいでになる宮は、どう返辞をしてよいかと苦しく思っておいでになる。もう処女でないからということを言葉にほのめかされるのを残念に宮はお思いになった。薄命とは自分のような女性をいうのであろうともお悲しまれになって、大将のいどんで来るのを死ぬほど苦しく思召された。
「私のこれまでの運命はどんなにまずいものでございましても、それだからといって、これを肯定しなければならないとは思われない」
 と、ほのかに可憐な泣き声をお立てになって、

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われのみや浮き世を知れるためしにて濡《ぬ》れ添ふ袖《そで》の名を朽《く》たすべき
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 ほかへお言いになるともなくお言いになったのを、大将がさらに自身の口にのせて歌うのさえ宮は苦痛にお思いになった。
「誤解をお受けしやすいようなことを私が申したものですから」
 などと言って、微笑するふうで、

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「おほかたはわが濡れ衣をきせずとも朽ちにし袖の名やは隠るる
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 もうしかたがないと思召してくだすったらどうですか」
 こう言って、月の光のあるほうへいっしょに出ようと大将はお勧めするのであるが、宮はじっと冷淡にしておいでになるのを、大将はぞうさなくお引き寄せして、
「安価な恋愛でなく、最も高い清い恋をする私であることをお認めになって、御安心なすってください。お許しなしに決して、無謀なことはいたしません」
 こうきっぱりとしたことを大将が言っているうちに明け方に近くもなった。澄み切った月の、霧にも紛れぬ光がさし込んできた。短い庇《ひさし》の山荘の軒は空をたくさんに座敷へ入れて、月の顔と向かい合っているようなのが恥ずかしくて、その光から隠れるように紛らしておいでになる宮の御様子が非常に艶《えん》であった。故人の話も少ししだして、閑雅な態度で大将は語っているのであった。しかもその中で故人に対してよりも劣ったお取り扱いを恨めしがった。宮のお心の中でも、故人はこの人に比べて低い地位に
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