の少ない老いた父を持って、おくればせに大きくなってゆこうとするのだね」
 と言って、お抱き取りになると、若君は快い笑《え》みをお見せした。よく肥《ふと》って色が白い。大将の幼児時代に思い比べてごらんになっても似ていない。女御《にょご》の宮方は皆父帝のほうによく似ておいでになって、王者らしい相貌《そうぼう》の気高《けだか》いところはあるが、ことさらお美しいということもないのに、この若君は貴族らしい上品なところに愛嬌《あいきょう》も添っていて、目つきが美しくよく笑うのを御覧になりながら院は愛情をお感じになった。思いなしか知らぬが故|衛門督《えもんのかみ》によく似ていた。これほどの幼児でいてすでに貴公子らしいりっぱな眼眸《めつき》をして艶《えん》な感じを持っていることも普通の子供に違っているのである。母の宮はそうであるとも確かにはわかっておいでにならなかったし、その他の人はもとより気のつかぬことであったから、ただ院お一人の心の中だけで、哀れな因縁であると故人のことを考えておいでになると、人生の無常さも次々に思われて涙のほろほろとこぼれるのを、今日は祝いの式ではないかと恥じてお隠しになり『五十
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