たがお考えくだすって住居《すまい》を移させることにしていただきたい。どうか今後もかれを念頭にお置きください」
 と法皇がお言いになると、
「そんな仰せまでも受けましてはかえって私が恥じ入ります。自分の精神がよく統一されていくのを待ちましてすべてのことに善処いたしましょう」
 院は実際悲しみに堪えぬ御様子であった。後夜《ごや》の加持の時に物怪《もののけ》が人に憑《うつ》って来て、
「どう、こんなことになってしまったではないか。上手《じょうず》に一人を取り返したと思っておいでになる様子がくやしかったから、それからは気のつかぬようにしてこちらへ私は来ていたのだ。もう帰りますよ」
 と笑った。これによれば紫夫人を悩ました物怪が、それ以来こちらへ憑いていたのであったか、あらゆる不祥事はかれがなさしめたのかもしれぬとお気づきになった時、女三の宮がおかわいそうでならぬ気のされる院でおありになった。宮の御容体は少し持ち直したようであったが、まだ危険状態を脱したとはお見えにならないのである。女房たちも御出家をあそばしたことで失望した様子であったが、たとえこうおなりになっても御健康さえ取りもどすことができ
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