けと仰せになった場合に、恥ずかしい結果を生むことになってはならない」
 とお言いになって、それから女三の宮に熱心な琴の教授をお始めになった。変わったものを二、三曲、また大曲の長いのが四季の気候によって変わる音、寒い時と空気の暖かい時によっての弾き方を変えねばならぬことなどの特別な奥義をお教えになるのであったが、初めはたよりないふうであったものの、お心によくはいってきて上手《じょうず》におなりになった。昼は人の出入りの物音の多さに妨げられて、絃《いと》を揺《ゆ》すったり、おさえて変わる音の繊細な味を研究おさせになるのに不便なために、夜になってから静かに教うべきであるとお言いになって、女王《にょおう》の了解をお求めになって院はずっと宮の御殿のほうへお泊まりきりになり、朝夕のお稽古《けいこ》の世話をあそばされた。女御《にょご》にも女王にも琴はお教えにならなかったのであったから、このお稽古の時に珍しい秘曲もお弾きになるのであろうことを予期して、女御も得ることの困難なお暇《いとま》をようやくしばらく得て帰邸したのであった。もう皇子を二人お持ちしているのであるが、また妊娠して五月ほどになっていたか
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