し》の造花は秋の草花といっしょになったように見えるが、「求《もと》の子《めこ》」の曲が終わりに近づいた時に、若い高官たちが正装の袍《ほう》の肩を脱いで舞の場へ加わった。黒の上着の下から臙脂《えんじ》、紅紫の下襲《したがさね》の袖《そで》をにわかに出し、それからまた下の袙《あこめ》の赤い袂《たもと》の見えるそれらの人の姿を通り雨が少しぬらした時には、松原であることも忘れて紅葉のいろいろが散りかかるように思われた。その派手《はで》な姿に白くほおけた荻《おぎ》の穂を挿《さ》してほんの舞の一節《ひとふし》だけを見せてはいったのがきわめておもしろかった。
院は昔を追憶しておいでになった。中途で不幸な日のあったことも目の前のことのように思われて、それについては語る人もお持ちにならぬ院は、関白を退いた太政大臣を恋しく思召《おぼしめ》された。車へお帰りになった院は第二の車へ、
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たれかまた心を知りて住吉《すみよし》の神代を経たる松にこと問ふ
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という歌を懐中紙《ふところがみ》に書いたのを持たせておやりになった。尼君は心を打たれたように萎《しお》れて
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