むつ》まじく話して、過去においては長く僭越《せんえつ》な競争者であると見ていた人に好意を持ちうるようになり、若宮を愛する気持ちの交流があたたかい友情までも覚えさすことになった。女王《にょおう》は子供好きであったから、天児《あまがつ》の人形などを自身で縫ったりしている時はことさら若々しく見えた。日夜を若宮のために心をつかう紫夫人であった。明石の老尼は、若宮を満足できるほど拝見することのできないのを残念に思っていた。しかしそれがかえって幸いであったかもしれぬ、なおしばらくでもそばでお愛し申し上げるような時間が許されたものであれば、あとの恋しい思いで尼は死んだかもしれないから。
明石の入道も姫君の出産の報を得て、人間離れのした心にも非常にうれしく思われて、
「もうこれでこの世と別な境地へ自分の心を置くことができる」
と弟子《でし》どもに言い、明石の邸宅を寺にし、近くの領地は寺領に付けて以前から播磨《はりま》の奥の郡《こおり》に人も通いがたい深い山のある所を選定して、最後のこもり場所としてあったものの、少しまだ不安な点が残していく世にあって、なおそこへは移らなかった山の草庵《そうあん》へ、
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