あったから、この徴候を見てだれもだれも危険がった。やっとのことでお許しが下がって帰邸することになった。女三の宮のおいでになる寝殿の東側になった座敷のほうに桐壺の方の一時の住居《すまい》が設けられたのである。明石《あかし》夫人も共に六条院へ帰った。光る未来のある桐壺の方の身に添って進退する実母夫人は幸運に恵まれた人と見えた。紫夫人はそちらへ行って桐壺の方に逢おうとして、
「このついでに中の戸を通りまして姫宮へ御|挨拶《あいさつ》をいたしましょう。前からそう思っていたのですが機会がなかったのですもの。わざわざ伺うのもきまりが悪かったのですが、こんな時だと自然なことに見えていいと思います」
と院へ御相談をした。院は微笑をされながら、
「結構ですよ。まだ子供なのですから、よくいろんなことを教えておあげなさい」
と御同意をあそばされた。宮様よりも明石夫人という聡明《そうめい》な女に逢うことで夫人は晴れがましく思い、髪も洗い、粧《よそお》いに念を入れた女王の美はこれに準じてよい人もないであろうと思われた。
院は宮のほうへおいでになって、
「今日の夕方対のほうにいる人が淑景舎《しげいしゃ》を訪
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