労に思った。
「もう少し大人になられるまで私がついていたいと、今まで念じ続けてきたものだが、このごろの健康状態でそうしていては、信仰生活にはいることもできずに死んでしまうのではないかという気がされるので、やむをえず出家を断行することにした。六条院に託しておくのが、なんといってもいちばん安心のできることだと思う。幾人《いくたり》も侍している夫人はあってもそれをいちいち念頭に置いてゆかねばならぬことでもなし、ただ主観的にこちらさえ寛大な心を持って臨めばよいことなのだ。はなやかな時代も過ぎて平淡な心境におられるあの院に三の宮の良人《おっと》となっていただくことは最も安心なことだと私は認めている。そのほかに適当な候補者はないよ。兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は風采《ふうさい》も人物もひととおりはりっぱな人だがね、それに私としては兄弟のことだから他人のようにひどい批評はできないものの、とにかくあの人はあまりに柔弱で、芸術家に傾き過ぎて、世間の信望が少し薄いようだ。そんなふうな人は良人として頼もしくは思われない。また大納言が臣礼をもって奉仕しようというのは親切な男というべきだが、さてそれに許してやる
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