あったのか、長い綱につながれていて、その綱が几帳の裾《すそ》などにもつれるのを、一所懸命に引いて逃げようとするために、御簾の横があらわに斜《はす》に上がったのを、すぐに直そうとする人がない。そこの柱の所にいた女房などもただあわてるだけでおじけ上がっている。几帳より少し奥の所に袿姿《うちぎすがた》で立っている人があった。階段のある正面から一つ西になった間《ま》の東の端であったから、あらわにその人の姿は外から見られた。紅梅|襲《がさね》なのか、濃い色と淡《うす》い色をたくさん重ねて着たのがはなやかで、着物の裾は草紙の重なった端のように見えた。桜の色の厚織物の細長らしいものを表着《うわぎ》にしていた。裾まであざやかに黒い髪の毛は糸をよって掛けたようになびいて、その裾のきれいに切りそろえられてあるのが美しい。身丈に七、八寸余った長さである。着物の裾の重なりばかりが量《かさ》高くて、その人は小柄なほっそりとした人らしい。この姿も髪のかかった横顔も非常に上品な美人であった。夕明りで見るのであるからこまごまとした所はわからなくて、後ろにはもう闇《やみ》が続いているようなのが飽き足らず思われた。鞠《ま
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