いたこの夕方の庭のながめはおもしろかった。あまり静かでないこの遊戯であるが、乱暴な運動とは見えないのも所がら人柄によるものなのであろう。趣のある庭の木立ちのかすんだ中に花の木が多く、若葉の梢《こずえ》はまだ少ない。遊び気分の多いものであって、鞠の上げようのよし悪しを競って、われ劣らじとする人ばかりであったが、本気でもなく出て混じった衛門督《えもんのかみ》の足もとに及ぶ者はなかった。顔がきれいで風采の艶《えん》なこの人は十分身の取りなしに注意して鞠を蹴り出すのであったが、自然にその姿の乱れるのも美しかった。正面の階段《きざはし》の前にあたった桜の木蔭で、だれも花のことなどは忘れて競技に熱中しているのを、院も兵部卿の宮も隅《すみ》の所の欄干によりかかって見ておいでになった。それぞれ特長のある巧みさを見せて勝負はなお進んでいったから、高官たちまでも今日はたしなみを正しくしてはおられぬように、冠の額を少し上へ押し上げたりなどしていた。大将も官位の上でいえば軽率なふるまいをすることになるが、目で見た感じはだれよりも若く美しくて、桜の色の直衣《のうし》の少し柔らかに着|馴《な》らされたのをつけて、
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