しそうにばかりあなたがするから、私はたまらなく苦しくなる。もっと荒削りに、私を打つとか捻《ひね》るとかして懲らしてくれたらどうですか。あなたにそうした水くさい態度をとらせるようには暮らして来なかったはずだが、妙にあなたは変わってしまいましたね」
などとも言って、機嫌《きげん》をお取りになるうちには前夜の真相も打ちあけて話しておしまいになることになった。姫宮のほうへお出かけにならずに、夫人をなだめるのに終日かかっておいでになった。それを宮は何ともお思いにならないのであるが、乳母たちだけは不快がっていろいろと言っていた。嫉妬《しっと》をお持ちになる傾向が宮にもあれば院はまして苦しい立場になるのであるが、おっとりとした少女《おとめ》の宮を、人形のように気楽にお扱いになることはできるのであった。
東宮へ上がっておいでになる桐壺《きりつぼ》の方は退出を長く東宮がお許しにならぬので、姫君時代の自由が恋しく思われる若い心にはこれを苦しくばかり思うのであった。夏ごろになっては健康もすぐれなくなったのであるが、なおも帰るお許しがないので困っていた。これは妊娠であったのである。まだ十四、五の小さい人であったから、この徴候を見てだれもだれも危険がった。やっとのことでお許しが下がって帰邸することになった。女三の宮のおいでになる寝殿の東側になった座敷のほうに桐壺の方の一時の住居《すまい》が設けられたのである。明石《あかし》夫人も共に六条院へ帰った。光る未来のある桐壺の方の身に添って進退する実母夫人は幸運に恵まれた人と見えた。紫夫人はそちらへ行って桐壺の方に逢おうとして、
「このついでに中の戸を通りまして姫宮へ御|挨拶《あいさつ》をいたしましょう。前からそう思っていたのですが機会がなかったのですもの。わざわざ伺うのもきまりが悪かったのですが、こんな時だと自然なことに見えていいと思います」
と院へ御相談をした。院は微笑をされながら、
「結構ですよ。まだ子供なのですから、よくいろんなことを教えておあげなさい」
と御同意をあそばされた。宮様よりも明石夫人という聡明《そうめい》な女に逢うことで夫人は晴れがましく思い、髪も洗い、粧《よそお》いに念を入れた女王の美はこれに準じてよい人もないであろうと思われた。
院は宮のほうへおいでになって、
「今日の夕方対のほうにいる人が淑景舎《しげいしゃ》を訪
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