《あ》いたいというのを遠慮しないではならない親であったから、実際問題として考えてもいつ逢えることともわからないので悲しかった。時々源氏の不純な愛撫《あいぶ》の手が伸ばされようとして困った話などは、だれにも言ってないことであったが、右近は怪しく思っていた。ほんとうのことはまだわからないようにこの人は思っているのである。返事を、
「書くのが恥ずかしくてならないけれど、あげないでは失望をなさるだろうから」
と言って、玉鬘《たまかずら》は書いた。
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ながめする軒の雫《しづく》に袖《そで》ぬれてうたかた人を忍ばざらめや
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それが長い時間でございますから、憂鬱《ゆううつ》的退屈と申すようなものもつのってまいります。失礼をいたしました。
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とうやうやしく書かれてあった。それを前に拡《ひろ》げて、源氏はその雨だれが自分からこぼれ落ちる気もするのであったが、人に悪い想像をさせてはならないと思って、しいておさえていた。昔の尚侍を朱雀《すざく》院の母后が厳重な監視をして、源氏に逢わせまいとされた時がちょうどこんなのであったと、その当
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