ないことがあれば世間も許さないでしょうから、その時に断然としたこういう処置もとられたらいいでしょう」
 などと大将は困りながら取り次がせていた。姫君にだけでも逢いたいと言ったのであるが出しそうもない。男の子の十歳《とお》になっているのは童殿上《わらわでんじょう》をしていて、愛らしい子であった。人にもほめられていて、容貌《ようぼう》などはよくもないが、貴族の子らしいところがあって、その子はもう父母の争いに関心が持てるほどになっていた。二男は八つくらいである。かわいい顔で姫君にも似ていたから、大臣は髪をなでてやりながら、
「おまえだけを恋しい形見にこれからは見て行くのだねお父様は」
 などと泣きながら言っていた。大将は宮へ御面会を願ったのであるが、
「風邪《かぜ》で引きこもっている時ですから」
 と断わられて、きまりが悪くなって宮邸を出た。二人の男の子を車に乗せて話しながら来たのであったが、六条院へつれて行くことはできないので、自邸へ置いて、
「ここにおいで。お父様は始終来て見ることができるから」
 と大将は言っていた。悲しそうに心細いふうで父を見送っていたのが哀れに思われて、大将は予期し
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