うと悲しまれて、隠れてしまうまで顧みられた。住んでいる主人《あるじ》のために家と別れるのが惜しいのではなくて、家そのものに愛着のある心がそうさせるのである。
大将夫人をお迎えになって、宮は非常にお悲しみになった。母の夫人は泣き騒いだ。
「太政大臣のことをよい親戚《しんせき》を持ったようにあなたは喜んでいらっしゃいますが、私には前生にどんな仇敵《かたき》だった人かと思われます。女御《にょご》などにも何かの場合に好意のない態度を露骨にお見せになりましたが、そのころは須磨《すま》時代の恨みが忘られないのだろうとあなたがお言いになり、世間でもそう批評されたのでも私には腑《ふ》に落ちなかったのです。それだのにまた今になって、養女を取ったりなどして、自分が御|寵愛《ちょうあい》なすって古くなすった代償にまじめな堅い男を取り寄せて婿にするなどということをなさる。これが恨めしくなくて何ですか」
こう言い続けるのである。
「聞き苦しい。世間から何一つ批難をお受けにならない大臣を、出まかせな雑言《ぞうごん》で悪く言うのはおよしなさい。聡明《そうめい》な人はこちらの罪を目前でどうしようとはしないで、自然
前へ
次へ
全51ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング