終わり]

 この歌を書きかけては泣き泣いては書きしていた。夫人は、
「そんなことを」
 と言いながら、

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馴れきとは思ひ出《い》づとも何により立ちとまるべき真木の柱ぞ
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 と自身も歌ったのであった。女房たちの心もいろいろなことが悲しくした。心のない庭の草や木と別れることも、あとに思い出して悲しいことであろうと心が動いた。木工《もく》の君は初めからこの家の女房であとへ残る人であった。中将の君は夫人といっしょに行くのである。

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「浅けれど石間《いはま》の水はすみはてて宿|守《も》る君やかげはなるべき
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 思いも寄らなかったことですね、こうしてあなたとお別れするようになるなどと」
 と中将の君が言うと、木工《もく》は、

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「ともかくも石間《いはま》の水の結ぼほれかげとむべくも思ほえぬ世を
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 何が何だかどうなるのだか」
 と言って泣いていた。
 車が引き出されて人々は邸《やしき》の木立ちのなお見える間は、自分らはまたもここを見る日はないであろ
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