念に思った。そうしたふうにだれと結婚をするかと世間に興味を持たせる娘に仕立てそこねたのがくやしいのである。これによっても中将が今一段光彩のある官に上らない間は結婚が許されないと大臣は思った。源氏がその問題の中へはいって来て懇請することがあれば、やむをえず負けた形式で同意をしようという大臣の腹であったが、中将のほうでは少しも焦慮《しょうりょ》するふうを見せず落ち着いているのであったからしかたがないのである。こんなことをいろいろと考えていた大臣は突然行って見たい気になって雲井の雁の居間を訪《たず》ねた。少将も供をして行った。雲井の雁はちょうど昼寝をしていた。薄物の単衣《ひとえ》を着て横たわっている姿からは暑い感じを受けなかった。可憐《かれん》な小柄な姫君である。薄物に透いて見える肌《はだ》の色がきれいであった。美しい手つきをして扇を持ちながらその肱《ひじ》を枕《まくら》にしていた。横にたまった髪はそれほど長くも、多くもないが、端のほうが感じよく美しく見えた。女房たちも几帳《きちょう》の蔭《かげ》などにはいって昼寝をしている時であったから、大臣の来たことをまだ姫君は知らない。扇を父が鳴らす音
前へ 次へ
全29ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング