た。
「水の上の価値が少しもわからない暑さだ。私はこんなふうにして失礼する」
源氏はこう言って身体《からだ》を横たえた。
「こんなころは音楽を聞こうという気にもならないし、さてまた退屈だし、困りますね。お勤めに出る人たちはたまらないでしょうね。帯も紐《ひも》も解かれないのだからね。私の所だけででも几帳面《きちょうめん》にせずに気楽なふうになって、世間話でもしたらどうですか。何か珍しいことで睡気《ねむけ》のさめるような話はありませんか。なんだかもう老人《としより》になってしまった気がして世間のこともまったく知らずにいますよ」
などと源氏は言うが、新しい事実として話し出すような問題もなくて、皆かしこまったふうで、涼しい高欄に背を押しつけたまま黙っていた。
「どうしてだれが私に言ったことかも覚えていないのだが、あなたのほうの大臣がこのごろほかでお生まれになったお嬢さんを引き取って大事がっておいでになるということを聞きましたがほんとうですか」
と源氏は弁《べん》の少将に問うた。
「そんなふうに世間でたいそうに申されるようなことでもございません。この春大臣が夢占いをさせましたことが噂《うわ
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