の場合によく私は、あの人の行くえを失ってしまったことを思って暗い心になっていたのだからね。聞き出せばすぐにその運びにしなければならないのを、怠っていることでも済まない気がする。お父さんの大臣に認めてもらう必要などはないよ。おおぜいの子供に大騒ぎをしていられるのだからね。たいした母から生まれたのでもない人がその中へはいって行っては、結局また苦労をさせることになる。私のほうは子供の数が少ないのだから、思いがけぬ所で発見した娘だとも世間へは言っておいて、貴公子たちが恋の対象にするほどにも私はかしずいてみせる」
 源氏の言葉を聞いていて、右近は姫君の運がこうして開かれて行きそうであるとうれしかった。
「何も皆|思召《おぼしめ》し次第でございます。内大臣へお知らせいたしますのも、あなた様のお手でなくてはできないことでございます。不幸なお亡《な》くなり方をなさいました奥様のかわりにもともかくも助けておあげになりましたなら罪がお軽くなります」
 と右近が言うと、
「私をまだそんなふうにも責めるのだね」
 源氏は微笑《ほほえ》みながらも涙ぐんでいた。
「短いはかない縁だったと、私はいつもあの人のことを
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