なちるさと》。真赤《まっか》な衣服に山吹《やまぶき》の花の色の細長は同じ所の西の対の姫君の着料に決められた。見ぬようにしながら、夫人にはひそかにうなずかれるところがあるのである。内大臣がはなやかできれいな人と見えながらも艶《えん》な所の混じっていない顔に玉鬘《たまかずら》の似ていることを、この黄色の上着の選ばれたことで想像したのであった。色に出して見せないのであるが、源氏はそのほうを見た時に、夫人の心の平静でないのを知った。
「もう着る人たちの容貌《きりょう》を考えて着物を選ぶことはやめることにしよう、もらった人に腹をたてさせるばかりだ。どんなによくできた着物でも物質には限りがあって、人の顔は醜くても深さのあるものだからね」
こんなことも言いながら、源氏は末摘花《すえつむはな》の着料に柳の色の織物に、上品な唐草《からくさ》の織られてあるのを選んで、それが艶な感じのする物であったから、人知れず微笑《ほほえ》まれるのであった。梅の折り枝の上に蝶《ちょう》と鳥の飛びちがっている支那《しな》風な気のする白い袿《うちぎ》に、濃い紅の明るい服を添えて明石《あかし》夫人のが選ばれたのを見て、紫夫人は侮辱されたのに似たような気が少しした。空蝉《うつせみ》の尼君には青鈍《あおにび》色の織物のおもしろい上着を見つけ出したのへ、源氏の服に仕立てられてあった薄黄の服を添えて贈るのであった。同じ日に着るようにとどちらへも源氏は言い添えてやった。自身の選定した物がしっくりと似合っているかを源氏は見に行こうと思うのである。
夫人たちからはそれぞれの個性の見える返事が書いてよこされ、使いへ出した纏頭《てんとう》もさまざまであったが、末摘花は東の院にいて、六条院の中のことでないから纏頭などは気のきいた考えを出さねばならぬのに、この人は形式的にするだけのことはせずにいられぬ性格であったから纏頭も出したが、山吹色の袿《うちぎ》の袖口《そでぐち》のあたりがもう黒ずんだ色に変色したのを、重ねもなく一枚きりなのである。末摘花女王《すえつむはなにょおう》の手紙は香の薫《かお》りのする檀紙《だんし》の、少し年数物になって厚く膨《ふく》れたのへ、
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どういたしましょう、いただき物はかえって私の心を暗くいたします。
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着て見ればうらみられけりから衣《ごろも》かへしやり
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