るのである。
 八月に六条院の造営が終わって、二条の院から源氏は移転することになった。南西は中宮の旧邸のあった所であるから、そこは宮のお住居《すまい》になるはずである。南の東は源氏の住む所である。北東の一帯は東の院の花散里、西北は明石《あかし》夫人と決めて作られてあった。もとからあった池や築山《つきやま》も都合の悪いのはこわして、水の姿、山の趣も改めて、さまざまに住み主の希望を入れた庭園が作られたのである。南の東は山が高くて、春の花の木が無数に植えられてあった。池がことに自然にできていて、近い植え込みの所には、五葉《ごよう》、紅梅、桜、藤《ふじ》、山吹《やまぶき》、岩躑躅《いわつつじ》などを主にして、その中に秋の草木がむらむらに混ぜてある。中宮のお住居《すまい》の町はもとの築山に、美しく染む紅葉《もみじ》を植え加えて、泉の音の澄んで遠く響くような工作がされ、流れがきれいな音を立てるような石が水中に添えられた。滝を落として、奥には秋の草野が続けられてある。ちょうどその季節であったから、嵯峨《さが》の大井の野の美観がこのために軽蔑《けいべつ》されてしまいそうである。北の東は涼しい泉があって
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