らしいが、よい将来のこもった字で感じよく書かれてある。

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日かげにもしるかりけめや少女子《をとめご》が天の羽袖にかけし心は
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 姉と弟がこの手紙をいっしょに読んでいる所へ思いがけなく父の惟光大人が出て来た。隠してしまうこともまた恐ろしくてできぬ若い姉弟《きょうだい》であった。
「それは、だれの手紙」
 父が手に取るのを見て、姉も弟も赤くなってしまった。
「よくない使いをしたね」
 としかられて、逃げて行こうとする子を呼んで、
「だれから頼まれた」
 と惟光が言った。
「殿様の若君がぜひっておっしゃるものだから」
 と答えるのを聞くと、惟光は今まで怒っていた人のようでもなく、笑顔《えがお》になって、
「何というかわいいいたずらだろう。おまえなどは同い年でまだまったくの子供じゃないか」
 とほめた。妻にもその手紙を見せるのであった。
「こうした貴公子に愛してもらえば、ただの女官のお勤めをさせるより私はそのほうへ上げてしまいたいくらいだ。殿様の御性格を見ると恋愛関係をお作りになった以上、御自身のほうから相手をお捨てになることは絶対にないようだ
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