に琵琶の弾けるという人はあまりなくなりました。何親王、何の源氏」
 などと大臣は数えたあとで、
「女では太政大臣が嵯峨《さが》の山荘に置いておく人というのが非常に巧《うま》いそうですね。さかのぼって申せば音楽の天才の出た家筋ですが、京官から落伍《らくご》して地方にまで行った男の娘に、どうしてそんな上手《じょうず》が出て来たのでしょう。源氏の大臣はよほど感心していられると見えて、何かのおりにはよくその人の話をせられます。ほかの芸と音楽は少し性質が変わっていて、多く聞き、多くの人と合わせてもらうことでずっと進歩するものですが、独習をしていて、その域に達したというのは珍しいことです」
 こんな話もしたが、大臣は宮にお弾きになることをお奨《すす》めした。
「もう絃《いと》を押すことなどが思うようにできなくなりましたよ」
 とお言いになりながらも、宮は上手に琴をお弾きになった。
「その山荘の人というのは、幸福な人であるばかりでなく、すぐれた聡明《そうめい》な人らしいですね。私に預けてくだすったのは男の子一人であの方の女の子もできていたらどんなによかったろうと思う女の子をその人は生んで、しかも自分
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