進んでいて、いつの間にか情人の関係にまで到《いた》ったらしい。東の院へ学問のために閉じこめ同様になったことは、このことがあるために若君を懊悩《おうのう》させた。まだ子供らしい、そして未来の上達の思われる字で、二人の恋人が書きかわしている手紙が、幼稚な人たちのすることであるから、抜け目があって、そこらに落ち散らされてもあるのを、姫君付きの女房が見て、二人の交情がどの程度にまでなっているかを合点する者もあったが、そんなことは人に訴えてよいことでもないから、だれも秘密はそっとそのまま秘密にしておいた。后《きさき》の宮、両大臣家の大|饗宴《きょうえん》なども済んで、ほかの催し事が続いて仕度《したく》されねばならぬということもなくて、世間の静かなころ、秋の通り雨が過ぎて、荻《おぎ》の上風も寂しい日の夕方に、大宮のお住居《すまい》へ内大臣が御訪問に来た。大臣は姫君を宮のお居間に呼んで琴などを弾《ひ》かせていた。宮はいろいろな芸のおできになる方で、姫君にもよく教えておありになった。
「琵琶《びわ》は女が弾《ひ》くとちょっと反感も起こりますが、しかし貴族的なよいものですね。今日はごまかしでなくほんとう
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