せて、舞い姫を直接世話するいわゆるかしずきの幾人だけはその家で選んだのをつけて、初めの日の夕方ごろに二条の院へ送った。なお童女幾人、下《しも》仕え幾人が付き添いに必要なのであるから、二条の院、東の院を通じてすぐれた者を多数の中から選《よ》り出すことになった。皆それ相応に選定される名誉を思って集まって来た。陛下が五節《ごせち》の童女だけを御覧になる日の練習に、縁側を歩かせて見て決めようと源氏はした。落選させてよいような子供もない、それぞれに特色のある美しい顔と姿を持っているのに源氏はかえって困った。
「もう一人分の付き添いの童女を私のほうから出そうかね」
 などと笑っていた。結局身の取りなしのよさと、品のよい落ち着きのある者が採られることになった。
 大学生の若君は失恋の悲しみに胸が閉じられて、何にも興味が持てないほど心がめいって、書物も読む気のしないほどの気分がいくぶん慰められるかもしれぬと、五節の夜は二条の院に行っていた。風采《ふうさい》がよくて落ち着いた、艶《えん》な姿の少年であったから、若い女房などから憧憬《あこがれ》を持たれていた。夫人のいるほうでは御簾《みす》の前へもあまりすわらせぬように源氏は扱うのである。源氏は自身の経験によって危険がるのか、そういうふうであったから、女房たちすらも若君と親しくする者はいないのであるが、今日は混雑の紛れに室内へもはいって行ったものらしい。車で着いた舞い姫をおろして、妻戸の所の座敷に、屏風《びょうぶ》などで囲いをして、舞い姫の仮の休息所へ入れてあったのを、若君はそっと屏風の後ろからのぞいて見た。苦しそうにして舞い姫はからだを横向きに長くしていた。ちょうど雲井《くもい》の雁《かり》と同じほどの年ごろであった。それよりも少し背が高くて、全体の姿にあざやかな美しさのある点は、その人以上にさえも見えた。暗かったからよくは見えないのであるが、年ごろが同じくらいで恋人の思われる点がうれしくて、恋が移ったわけではないがこれにも関心は持たれた。若君は衣服の褄先《つまさき》を引いて音をさせてみた。思いがけぬことで怪しがる顔を見て、

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「天《あめ》にます豊岡《とよをか》姫の宮人もわが志すしめを忘るな
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『みづがきの』(久しき世より思ひ初《そ》めてき)」
 と言ったが、藪《やぶ》から棒ということ
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