にうつる朝顔
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秋にふさわしい花をお送りくださいましたことででももの哀れな気持ちになっております。
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とだけ書かれた手紙はたいしておもしろいものでもないはずであるが、源氏はそれを手から放すのも惜しいようにじっとながめていた。青鈍《あおにび》色の柔らかい紙に書かれた字は美しいようであった。書いた人の身分、書き方などが補ってその時はよい文章、よい歌のように思われたことも、改めて本の中へ書き載せると拙《つたな》い点の現われてくるものであるから、手紙の文章や歌というようなものは、この話の控え帳に筆者は大部分省くことにしていたので、採録したものにも書き誤りがあるであろうと思われる。
今になってまた若々しい恋の手紙を人に送るようなことも似合わしくないことであると源氏は思いながらも、昔から好意も友情もその人に持たれながら、恋の成り立つまでにはならなかったのを思うと、もうあとへは退《ひ》けない気になっていて、再び情火を胸に燃やしながら心をこめた手紙を続いて送っていた。東の対のほうに離れていて、前斎院の宣旨を源氏は呼び寄せて相談をしていた。
女房たち
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