げ終わり]
と言いながら、外を見るために少し傾けた顔が美しかった。髪の性質《たち》、顔だちが恋しい故人の宮にそっくりな気がして、源氏はうれしかった。少し外に分けられていた心も取り返されるものと思われた。鴛鴦《おしどり》の鳴いているのを聞いて、源氏は、
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かきつめて昔恋しき雪もよに哀れを添ふる鴛鴦《をし》のうきねか
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と言っていた。
寝室にはいってからも源氏は中宮の御事を恋しく思いながら眠りについたのであったが、夢のようにでもなくほのかに宮の面影が見えた。非常にお恨めしいふうで、
「あんなに秘密を守るとお言いになりましたけれど、私たちのした過失《あやまち》はもう知れてしまって、私は恥ずかしい思いと苦しい思いとをしています。あなたが恨めしく思われます」
とお言いになった。返辞を申し上げるつもりでたてた声が、夢に襲われた声であったから、夫人が、
「まあ、どうなさいました、そんなに」
と言ったので源氏は目がさめた。非常に残り惜しい気がして、張り裂けるほどの鼓動を感じる胸をおさえていると、涙も流れてきた。夢のまったく醒《さ》めたのちで
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