すか、理由《わけ》がわからない」
 と言いながら、額髪《ひたいがみ》を手で払ってやり、憐《あわれ》んだ表情で夫人の顔を源氏がながめている様子などは、絵に描《か》きたいほど美しい夫婦と見えた。
「女院がお崩《かく》れになってから、陛下が寂しそうにばかりしておいでになるのが心苦しいことだし、太政大臣が現在では欠けているのだから、政務は皆私が見なければならなくて、多忙なために家《うち》へ帰らない時の多いのを、あなたから言えば例のなかったことで、寂しく思うのももっともだけれど、ほんとうはもうあなたの不安がることは何もありませんよ。安心しておいでなさい。大人になったけれどまだ少女のように思いやりもできず、私を信じることもできない、可憐《かれん》なばかりのあなたなのだろう」
 などと言いながら、優しく妻の髪を直したりして源氏はいるのであったが、夫人はいよいよ顔を向こうへやってしまって何も言わない。
「若々しい我儘《わがまま》をあなたがするのも私のつけた癖なのだ」
 歎息《たんそく》をして、短い人生に愛する人からこんなにまで恨まれているのも苦しいことであると源氏は思った。
「斎院との交際で何かあなた
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