こそ忘られね親の親とか言ひし一こと
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源氏は悪感《おかん》を覚えて、
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「身を変へて後《あと》も待ち見よこの世にて親を忘るるためしありやと
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頼もしい縁ですよ。そのうちにまた」
と言って立ってしまった。
西のほうはもう格子が下《お》ろしてあったが、迷惑がるように思われてはと斟酌《しんしゃく》して一間二間はそのままにしてあった。月が出て淡い雪の光といっしょになった夜の色が美しかった。今夜は真剣なふうに恋を訴える源氏であった。
「ただ一言、それは私を憎むということでも御自身のお口から聞かせてください。私はそれだけをしていただいただけで満足してあきらめようと思います」
熱情を見せてこう言うが、女王《にょおう》は、自分も源氏もまだ若かった日、源氏が今日のような複雑な係累もなくて、どんなことも若さの咎《とが》で済む時代にも、父宮などの希望された源氏との結婚問題を、自分はその気になれずに否《いな》んでしまった。ましてこんなに年が行って衰えた今になっては、一言でも直接にものを言ったりすることは恥ずかしくてできないと
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