して少しずつあとへ引っ込んでお行きになるのを知って、
「そんなに私が不愉快なものに思われますか、高尚《こうしょう》な貴女《きじょ》はそんなにしてお見せになるものではありませんよ。ではもうあんなお話はよしましょうね。これから私をお憎みになってはいけませんよ」
と言って源氏は立ち去った。しめやかな源氏の衣服の香の座敷に残っていることすらを宮は情けなくお思いになった。女房たちが出て来て格子《こうし》などを閉《し》めたあとで、
「このお敷き物の移り香の結構ですこと、どうしてあの方はこんなにすべてのよいものを備えておいでになるのでしょう。柳の枝に桜を咲かせたというのはあの方ね。どんな前生《ぜんしょう》をお持ちになる方でしょう」
などと言い合っていた。
西の対に帰った源氏はすぐにも寝室へはいらずに物思わしいふうで庭をながめながら、端の座敷にからだを横たえていた。燈籠《とうろう》を少し遠くへ掛けさせ、女房たちをそばに置いて話をさせなどしているのであった。思ってはならぬ人が恋しくなって、悲しみに胸のふさがるような癖がまだ自分には残っているのでないかと、源氏は自身のことながらも思われた。これはまっ
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