い。別当も家職も忠実に事務を取っていて整然とした一家をなしていた。
山荘の人のことを絶えず思いやっている源氏は、公私の正月の用が片づいたころのある日、大井へ出かけようとして、ときめく心に装いを凝らしていた。桜の色の直衣《のうし》の下に美しい服を幾枚か重ねて、ひととおり薫物《たきもの》が焚《た》きしめられたあとで、夫人へ出かけの言葉を源氏はかけに来た。明るい夕日の光に今日はいっそう美しく見えた。夫人は恨めしい心を抱きながら見送っているのであった。無邪気な姫君が源氏の裾《すそ》にまつわってついて来る。御簾《みす》の外へも出そうになったので、立ち止まって源氏は哀れにわが子をながめていたが、なだめながら、「明日かへりこん」(桜人その船とどめ島つ田を十|町《まち》作れる見て帰りこんや、そよや明日帰りこんや)と口ずさんで縁側へ出て行くのを、女王《にょおう》は中から渡殿の口へ先まわりをさせて、中将という女房に言わせた。
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船とむる遠方人《をちかたびと》のなくばこそ明日帰りこん夫《せな》とまち見め
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物|馴《な》れた調子で歌いかけたのである。源氏は
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