雅な女主人になる資格のある人であると源氏は思っていた。
源氏の作っている御堂は大覚寺の南にあたる所で、滝殿《たきどの》などの美術的なことは大覚寺にも劣らない。明石の山荘は川に面した所で、大木の松の多い中へ素朴《そぼく》に寝殿の建てられてあるのも、山荘らしい寂しい趣が出ているように見えた。源氏は内部の設備までも自身のほうでさせておこうとしていた。親しい人たちをもまたひそかに明石へ迎えに立たせた。
免れがたい因縁に引かれていよいよそこを去る時になったのであると思うと、女の心は馴染《なじみ》深い明石の浦に名残《なごり》が惜しまれた。父の入道を一人ぼっちで残すことも苦痛であった。なぜ自分だけはこんな悲しみをしなければならないのであろうと、朗らかな運命を持つ人がうらやましかった。両親も源氏に迎えられて娘が出京するというようなことは長い間寝てもさめても願っていたことで、それが実現される喜びはあっても、その日を限りに娘たちと別れて孤独になる将来を考えると堪えがたく悲しくて、夜も昼も物思いに入道は呆《ぼう》としていた。言うことはいつも同じことで、
「そして私は姫君の顔を見ないでいるのだね」
それ
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