住居《すまい》がよろしいのならあすこはだめかもしれません」
「いや、それは構わないのだ。というのは内大臣家にも関係のあることでそこへ行こうとしているのだからね。家の中の設備などは追い追いこちらからさせるが、まず急いで大体の修繕のほうをさせてくれ」
と入道が言う。
「私の所有ではありませんが、持っていらっしゃる方もなかったものですから、一軒家のような所を長く私が守って来たのです。別荘についた田地なども荒れる一方でしたから、お亡《な》くなりになりました民部大輔《みんぶだゆう》さんにお願いして、譲っていただくことにしましてそれだけの金は納めたのでした」
預かり人は自身の物のようにしている田地などを回収されないかと危うがって、権利を主張しておかねばというように、鬚《ひげ》むしゃな醜い顔の鼻だけを赤くしながら顎《あご》を上げて弁じ立てる。
「私のほうでは田地などいらない。これまでどおりに君は思っておればいい。別荘その他の証券は私のほうにあるが、もう世捨て人になってしまってからは、財産の権利も義務も忘れてしまって、留守居《るすい》料も払ってあげなかったが、そのうち精算してあげるよ」
こんな話
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