宵《こよひ》はところがらかも」と不思議がった歌のことを言い出すと、源氏の以前のことを思って泣く人も出てきた。皆酔ってもいるからである。
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めぐりきて手にとるばかりさやけきや淡路の島のあはと見し月
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これは源氏の作である。
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浮き雲にしばしまがひし月影のすみはつるよぞのどけかるべき
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頭中将《とうのちゅうじょう》である。右大弁は老人であって、故院の御代《みよ》にも睦《むつ》まじくお召し使いになった人であるが、その人の作、
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雲の上の住みかを捨てて夜半《よは》の月いづれの谷に影隠しけん
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なおいろいろな人の作もあったが省略する。歌が出てからは、人々は感情のあふれてくるままに、こうした人間の愛し合う世界を千年も続けて見ていきたい気を起こしたが、二条の院を出て四日目の朝になった源氏は、今日はぜひ帰らねばならぬと急いだ。一行にいろいろな物をかついだ供の人が加わった列は、霧の間を行くのが秋草の園のようで美しかった。近衛府《このえふ》の有名な芸人
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