たが、昔の方がお供の中においでになって力強く思います」
 などと明石は言った。すばらしいものにこの人はなったものだ、自分だって恋人にしたいと思ったこともある女ではないかなどと思って、驚異を覚えながらも蔵人《くろうど》は、
「また別の機会に」
 と言って男らしく肩を振って行った。りっぱな風采《ふうさい》の源氏が静かに歩を運ぶかたわらで先払いの声が高く立てられた。源氏は車へ頭中将《とうのちゅうじょう》、兵衛督《ひょうえのかみ》などを陪乗させた。
「つまらない隠れ家を発見されたことはどうも残念だ」
 源氏は車中でしきりにこう言っていた。
「昨夜はよい月でございましたから、嵯峨《さが》のお供のできませんでしたことが口惜《くちお》しくてなりませんで、今朝《けさ》は霧の濃い中をやって参ったのでございます。嵐山《あらしやま》の紅葉《もみじ》はまだ早うございました。今は秋草の盛りでございますね。某朝臣《ぼうあそん》はあすこで小鷹狩《こたかがり》を始めてただ今いっしょに参れませんでしたが、どういたしますか」
 などと若い人は言った。
「今日はもう一日|桂《かつら》の院で遊ぶことにしよう」
 と源氏は言っ
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