二条の院の古画新画のはいった棚《たな》をあけて夫人といっしょに絵を見分けた。古い絵に属する物と現代的な物とを分類したのである。長恨歌、王昭君などを題目にしたのはおもしろいが縁起はよろしくない。そんなのを今度は省くことに源氏は決めたのである。旅中に日記代わりに描いた絵巻のはいった箱を出して来て源氏ははじめて夫人にも見せた。何の予備知識を備えずに見る者があっても、少し感情の豊かな者であれば泣かずにはいられないだけの力を持った絵であった。まして忘れようもなくその悲しかった時代を思っている源氏にとって、夫人にとって今また旧作がどれほどの感動を与えるものであるかは想像するにかたくはない。夫人は今まで源氏の見せなかったことを恨んで言った。
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「一人|居《ゐ》て眺《なが》めしよりは海人《あま》の住むかたを書きてぞ見るべかりける
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あなたにはこんな慰めがおありになったのですわね」
源氏は夫人の心持ちを哀れに思って言った。
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「うきめ見しそのをりよりは今日はまた過ぎにし方に帰る涙か
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中宮《ちゅうぐ
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