御座右に差し上げていただきたい」
こう源氏は申し出た。女院はこの二巻の前後の物も皆見たく思召すとのことであったが、
「またおりを見まして」
と源氏は御|挨拶《あいさつ》を申した。帝が絵合わせに満足あそばした御様子であったのを源氏はうれしく思った。二人の女御の挑《いど》みから始まったちょっとした絵の上のことでも源氏は大形《おおぎょう》に力を入れて梅壺《うめつぼ》を勝たせずには置かなかったことから中納言は娘の気《け》押されて行く運命も予感して口惜《くちお》しがった。帝は初めに参った女御であって、御愛情に特別なもののあることを、女御の父の中納言だけは想像のできる点もあって、頼もしくは思っていて、すべては自分の取り越し苦労であるとしいて思おうとも中納言はしていた。
宮中の儀式などもこの御代《みよ》から始まったというものを起こそうと源氏は思うのであった。絵合わせなどという催しでも単なる遊戯でなく、美術の鑑賞の会にまで引き上げて行なわれるような盛りの御代が現出したわけである。しかも源氏は人生の無常を深く思って、帝がいま少し大人におなりになるのを待って、出家がしたいと心の底では思っているようで
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