くんこう》がそろえられてあった。源氏が拝見することを予想して用意あそばされた物らしい。源氏の来ていた時であったから、女別当《にょべっとう》はその報告をして品々を見せた。源氏はただ櫛の箱だけを丁寧に拝見した。繊細な技巧でできた結構な品である。挿《さ》し櫛のはいった小箱につけられた飾りの造花に御歌が書かれてあった。

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別れ路《ぢ》に添へし小櫛をかごとにてはるけき中と神やいさめし
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 この御歌に源氏は心の痛くなるのを覚えた。もったいないことを計らったものであると、源氏は自身のかつてした苦しい思いに引き比べて院の今のお心持ちも想像することができてお気の毒でならない。斎王として伊勢へおいでになる時に始まった恋が、幾年かの後に神聖な職務を終えて女王《にょおう》が帰京され御希望の実現されてよい時になって、弟君の陛下の後宮《こうきゅう》へその人がはいられるということでどんな気があそばすだろう。閑暇《かんか》な地位へお退《の》きになった現今の院は、何事もなしうる主権に離れた寂しさというようなものをお感じにならないであろうか、自分であれば世の中が恨めしくな
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