えられないことを口惜《くちお》しがっていた。貴女らしい奥深さをあくまで持っていて、うかとして人に見られる隙《すき》のあるような人でない斎宮の女御を源氏は一面では敬意の払われる養女であると思って満足しているのであった。
 こんなふうに隙間《すきま》もないふうに二人の女御が侍しているのであったから、兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は女王の後宮入りを実現させにくくて煩悶《はんもん》をしておいでになったが、帝が青年におなりになったなら、外戚の自分の娘を疎外あそばすことはなかろうとなお希望をつないでおいでになった。宮廷の二人の女御ははなやかに挑《いど》み合った。帝は何よりも絵に興味を持っておいでになった。特別にお好きなせいかお描《か》きになることもお上手《じょうず》であった。斎宮の女御は絵をよく描くのでそれがお気に入って、女御の御殿へおいでになってはごいっしょに絵をお描きになることを楽しみにあそばした。殿上の若い役人の中でも絵の描ける者を特にお愛しになる帝であったから、まして美しい人が、雅味《がみ》のある絵を上手に墨で描いて、からだを横たえながら、次の筆の下《お》ろしようを考えたりしている可憐《かれん》さが御心《みこころ》に沁《し》んで、しばしばこちらへおいでになるようになり、御|寵愛《ちょうあい》が見る見る盛んになった。権中納言がそれを聞くと、どこまでも負けぎらいな性質から有名な画家の幾人を家にかかえて、よい絵をよい紙に、描かせることをひそかにさせていた。
「小説を題にして描いた絵が最もおもしろい」
 と言って、権中納言は選んだよい小説の内容を絵にさせているのである。一年十二季の絵も平凡でない文学的価値のある詞《ことば》書きをつけて帝のお目にかけた。おもしろい物であるがそれは非常に大事な物らしくして、帝のおいでになっている間にも、長くは御前へ出して置かずにしまわせてしまうのである。帝が斎宮の女御に見せたく思召して、お持ちになろうとするのを弘徽殿の人々は常にはばむのであった。源氏がそれを聞いて、
「中納言の競争心はいつまでも若々しく燃えているらしい」
 などと笑った。
「隠そう隠そうとしてあまり御前へ出さずに陛下をお悩ましするなどということはけしからんことだ」
 と源氏は言って、帝へは
「私の所にも古い絵はたくさんございますから差し上げることにいたしましょう」
 と奏して、源氏は
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