従者は常陸《ひたち》の一行に皆目を留めて過ぎた。九月の三十日であったから、山の紅葉《もみじ》は濃く淡《うす》く紅を重ねた間に、霜枯れの草の黄が混じって見渡される逢坂山の関の口から、またさっと一度に出て来た襖姿《あおすがた》の侍たちの旅装の厚織物やくくり染めなどは一種の美をなしていた。源氏の車は簾《みす》がおろされていた。今は右衛門佐《うえもんのすけ》になっている昔の小君《こぎみ》を近くへ呼んで、
「今日こうして関迎えをした私を姉さんは無関心にも見まいね」
などと言った。心のうちにはいろいろな思いが浮かんで来て、恋しい人と直接言葉がかわしたかった源氏であるが、人目の多い場所ではどうしようもないことであった。女も悲しかった。昔が昨日のように思われて、煩悶《はんもん》もそれに続いた煩悶がされた。
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行くと来《く》とせきとめがたき涙をや絶えぬ清水《しみづ》と人は見るらん
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自分のこの心持ちはお知りにならないであろうと思うとはかなまれた。
源氏が石山寺を出る日に右衛門佐が迎えに来た。源氏に従って寺へ来ずに、姉夫婦といっしょに京へはいってしま
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