あいそ》をつかせて、ここだけは素通りにしてやって来なかったから、こんな野良藪《のらやぶ》のような邸の中で、寝殿《しんでん》だけは昔通りの飾りつけがしてあった。しかしきれいに掃除《そうじ》をしようとするような心がけの人もない。埃《ちり》は積もってもあるべき物の数だけはそろった座敷に末摘花《すえつむはな》は暮らしていた。古い歌集を読んだり、小説を見たりすることでつれづれが慰められることにもなるし、物質的に不足の多い境遇も忍んで行けるのであるが、末摘花はそんな趣味も持っていない。それは必ずしもよいことではないが、暇な女性の間で友情を盛った手紙を書きかわすことなどは、多感な年ごろではそれによって自然の見方も深くなっていき、木や草にも慰められることにもなるが、この女王は父宮が大事にお扱いになった時と同じ心持ちでいて、普通の人との交際はいっさい避けて友人を持っていないのである。親戚関係があっても親しもうとせず、好意を寄せようとしない態度は手紙を書かぬ所にうかがわれもするのである。古くさい書物|棚《だな》から、唐守《からもり》、藐姑射《はこや》の刀自《とじ》、赫耶姫《かぐやひめ》物語などを絵に描いた
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