った所に生活のできることほどよいこともないようにこれまでから焦《こが》れていて、すぐに承諾して来た。源氏は田舎《いなか》下りをしてくれる宰相の娘を哀れに思って、いろいろと出立の用意をしてやっていた。
外出したついでに源氏はそっとわが子の新しい乳母の家へ寄った。快諾を伝えてもらったのであるが、なお女はどうしようかと煩悶《はんもん》していた所へ源氏みずからが来てくれたので、それで旅に出る心も慰んで、あきらめもついた。
「御意のとおりにいたします」
と言っていた。ちょうど吉日でもあったのですぐに立たせることに源氏はした。
「同情がないようだけれど、私は将来に特別な考えもある子なのだからね、それに私も経験して来た土地の生活だから、そう思ってまあ初めだけしばらく我慢をすれば馴《な》れてしまうよ」
と源氏は明石の入道家のことをくわしく話して聞かせた。母といっしょに父帝のおそばに来ていたこともあって、時々は見た顔であったが、以前に比べると容貌《ようぼう》が衰えていた。家の様子などもずいぶんひどい荒れ方になっている。さすがに広いだけは広いが気味悪く思われるほど木なども繁《しげ》りほうだいになって
前へ
次へ
全44ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング