ょうわらわ》として出入りしているのである。源氏の葵《あおい》夫人の死んだことを、父母はまたこの栄えゆく春に悲しんだ。しかしすべてが昔の婿の源氏によってもたらされた光明であって、何年かの暗い影が源氏のためにこの家から取り去られたのである。源氏は今も昔のとおりに老夫妻に好意を持っていて何かの場合によく訪《たず》ねて行った。若君の乳母《めのと》そのほかの女房も長い間そのままに勤めている者に、厚く酬《むく》いてやることも源氏は忘れなかった。幸せ者が多くできたわけである。二条の院でもそのとおりに、主人を変えようともしなかった女房を源氏は好遇した。また中将とか、中務《なかつかさ》とかいう愛人関係であった人たちにも、多年の孤独が慰むるに足るほどな愛撫《あいぶ》が分かたれねばならないのであったから、暇がなくて外歩きも源氏はしなかった。二条の院の東に隣った邸《やしき》は院の御遺産で源氏の所有になっているのをこのごろ源氏は新しく改築させていた。花散里《はなちるさと》などという恋人たちを住ませるための設計をして造られているのである。
 源氏は明石《あかし》の君の妊娠していたことを思って、始終気にかけているの
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