のと》などから、
「もったいないことでございますから」
 と言って、自筆で書くことをお勧められになるのである。雪が霙《みぞれ》となり、また白く雪になるような荒日和《あれびより》に、宮がどんなに寂しく思っておいでになるであろうと想像をしながら源氏は使いを出した。
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こういう天気の日にどういうお気持ちでいられますか。

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降り乱れひまなき空に亡《な》き人の天《あま》がけるらん宿ぞ悲しき
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 という手紙を送ったのである。紙は曇った空色のが用いられてあった。若い人の目によい印象があるようにと思って、骨を折って書いた源氏の字はまぶしいほどみごとであった。宮は返事を書きにくく思召したのであるが、
「われわれから御|挨拶《あいさつ》をいたしますのは失礼でございますから」
 と女房たちがお責めするので、灰色の紙の薫香《くんこう》のにおいを染ませた艶《えん》なのへ、目だたぬような書き方にして、

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消えがてにふるぞ悲しきかきくらしわが身それとも思ほえぬ世に
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 とお書きになった。おとな
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