あいきょう》がこぼれるように見える尚侍も涙を流しているのを御覧になると、どんな罪も許すに余りあるように思召されて、御愛情がそのほうへ傾くばかりであった。
「なぜあなたに子供ができないのだろう。残念だね。前生の縁の深い人とあなたの中にはすぐにまたその悦《よろこ》びをする日もあるだろうと思うとくやしい。それでも気の毒だね、親王を生むのでないから」
 こんな未来のことまでも仰せになるので、恥ずかしい心がしまいには悲しくばかりなった。帝は御容姿もおきれいで、深く尚侍をお愛しになる御心は年月とともに顕著になるのを、尚侍は知っていて、源氏はすぐれた男であるが、自分を思う愛はこれほどのものでなかったということもようやく悟ることができてきては、若い無分別さからあの大事件までも引き起こし、自分の名誉を傷つけたことはもとより、あの人にも苦労をさせることになったとも思われて、それも皆自分が薄倖《はっこう》な女だからであるとも悲しんでいた。
 翌年の二月に東宮の御元服があった。十二でおありになるのであるが、御年齢のわりには御大人《おんおとな》らしくて、おきれいで、ただ源氏の大納言の顔が二つできたようにお見えに
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